足を進めれば、それと同じだけ進む足。
歩みを止めれば、それから少し遅れて歩みが止まる。
距離は一向に縮まらない。
冷たい唇
「獄寺君、俺別に怒ってないからさ」
「いえ!俺は、俺は右腕として失格です・・・」
その返答を聞いたのは何度目か。
いい加減腹立たしくなってきて、ため息をついたら、君の体がピクリと反応したのが分かった。
歩みを止めていた足を動かす。後方三歩ほど後ろにいる君と向き合うように。
微かに膝が痛んだ。
ダメツナと呼ばれるようになって数年。こけることなんてしばしばで、擦り傷なんて絶えなかった。最近は少なくなってきたとは言っても、躓く程度のことは頻繁だ。
だから、ちょっと踏み外して階段の数段落ちたぐらいでこの状態では困るのだ。
「別に君のせいじゃないから」
「俺が、もっと気をつけていれば・・・」
先ほどから会話は堂々巡り。
怒りを通り越して呆れてくる。
たった三歩の距離。大またで歩けば二歩だ。
「獄寺君、動かないでね」
そう前置きして、二歩距離を縮めた。
俯いていた君の顔が驚いたように上がる。逃げるように後ずさる君の腕を取り、静止させた。君の眉が微かに寄る。
「俺をかばったときぶつけたよね」
いたわるように君の腕を見つめる。
俺の脚が階段を離れると同時に君の腕が俺をかばった。そのまま見事に二人で落ちて被害は二倍だ。
「・・・でも、守れませんでした」
絞り出すような声。
何故この人はそこまで自分を追い詰めてしまうのか。
「別に守ってもらいたくて傍にいるわけじゃないよ」
呟いて、一歩距離祖縮める。君の頬に手を添えた。
身長差があるからまだ距離はあるけれど、背伸びでそこは頑張った。
かすめるように奪った君の唇はとても冷たい。
「じゅ、十代目っ!!」
瞬く間に君の体が赤く染まっていく。
そんな顔をされるとこっちまで恥ずかしくなる。
「今日のお礼。まだちゃんと言ってなかったし・・・・・・・って、何泣いてんの!?」
目をそらして、そう告げたら、君の目から涙があふれてきて驚いた。
「スミマセン・・・!次こそはお守りしますから!」
「だから、別にいいって」
「いえ!そういうわけには!」
必死な君に思わず笑みがこぼれる。
「ほら、帰ろう」
手を差し伸べる。もうあの距離はいらない。
おずおずと伸ばされる手を取り、握り締めた。
「次は絶対守ります」
「はいはい」
握り返してくれる手が嬉しい。
傍にいてくれることが嬉しい。
俺は君がいるだけで幸せになれる。
だから、
「傍にいてくれればいいよ」
END
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