「趙雲殿は、ぬるま湯みたいですね」
そんなことを呟かれて、趙雲はきょとんと相手を見つめた。



   ぬるま湯に浸かる



「・・・それは、褒められているのか?けなされているのか?」
「けなしてるなんて!気分を害されたなら申し訳ありません!」
趙雲のちょっと寂しそうな返答に、陸遜は慌てて謝罪した。

「えと、褒めるとかけなすとかじゃなくて、ただ急にそんな風に思ったので・・・」
自分でもよく分からないといった風に、陸遜は困ったような笑顔を浮かべてみせた。

「いいよ。それで、何で私がぬるま湯なんだ?」

聞かれて、陸遜はちょっと言葉に詰まった。
とてつもなく説明し辛いと言うか、しにくいというか。

それでも不思議そうに自分を見つめてくる相手に、陸遜は口を開いた。
「えーと、私って結構冷めてるって言われるんです。自分でもそう思いますし。だからでしょうか、熱いと言うか熱血というか、そういう方と一緒にいるのが苦手で」

それがどう先ほどの発言と繋がってくるのかが理解できないといった感じで、趙雲が少し首を傾けて見せるので、よく分からないこと言ってすみませんと陸遜は再度謝った。

「それで、趙雲殿はどうかなと思いまして。なんていうか・・・」

陸遜が微かに頬を赤らめて口ごもる。すごく言いにくい。

「趙雲殿とは、一緒に居て苦しいどころか、なんだか暖かくなる様な気がして。冷え切った私でも触れるような温かさというか・・・。冬かじかんだ体でもぬるま湯には浸かれるでしょう?」

これ以上説明は無理だ。恥ずかしいし、自分でも何を言っているか分からない。

「だからぬるま湯か」

そう呟く趙雲を見れば、今の説明で分かってくれたのか、いつもの優しげな笑顔を浮かべていた。

温かい、そう思った。
暑苦しくもなく、ぬるすぎもせず、じんわりと体を温めてくれる。

「分かりましたか?今の説明で」
「なんとなくだけど、な」

大好きな笑顔を浮かべて、なんとなくでも自分の気持ちを分かったと言ってくれたことが、陸遜には嬉しくてぎゅっと胸元を握った。


冷静沈着、何事に対しても私情を持ち込まず、国の利益のためだけに非情な決断すら下す、それが軍師だと思っていた。
だから、自分も非情でなければ、常に冷静でなければならないと陸遜は心を凍てつかせた。
しかし、そのせいで熱いものに向き合えなくもなった。人情だ、同情だと言って敵味方かまわず情けをかける輩が嫌いだった。それは冷静さを欠いた愚かな決断だと思ったから。

そんな冷え切った心を溶かしてくれた。最初はぬるくて気が付かなくても、長い間それに浸かり続けることで冷えた心は熱を、感情を取り戻す。


「ぬるま湯に長い時間浸かると体の芯から暖まるそうですよ」

あなたの笑顔が、存在が私を暖める。

「じゃあ、私はずっと陸遜の傍にいるさ」

額に落ちた口付けに頬が熱を持つ。
また、気付かないうちに溶けた心がほぐれていく。

ぬるま湯に浸かるのだって悪くない。

                                                                       END



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 拍手御礼第一弾!その2!
 微妙でスミマセンでした!
 長く使ってスミマセン!
 私は、熱めの風呂が好みです!(どうでもいい!

≫掲載期間:06年8月20日〜07年3月22日