猫舌さんとコーヒー
「コーヒーでイイですか?」
「うん、ありがとう」
いつもと変わらない会話。
いつもと変わらない君の後ろ姿。
コーヒーを淹れる仕草と共に動く背中を見つめ、俺はソファに座り込む。
なんだかここは安心する。
「どうぞ」
満面の笑みで差し出されたカップを受け取る。
じんわりカップの温もりが手に染み込み、気持ちが良い。
「いただきます」
そう言って一口。
コーヒー独特の香りが口に広がり、次に甘さと苦みが乾いていた舌を潤した。
「美味しいよ」
笑ってそう言えば、君も嬉しそうに笑って、俺の隣に腰を下ろした。
カップを口元に寄せ、盗み見るように君の横顔をみる。
湯気がかかる君のきれいな顔。
ミルクたっぷりの俺のとは違うブラックコーヒーを口にする君の姿はいつ見てもカッコイいと思う。
ふと、気が付いた。
「あ」
小さく声を漏らした俺を君が不思議そうに見つめる。
「どうかしましたか?十代目」
「ううん、なんでもない」
笑みを浮かべ首を振る。
気が付いてしまった。君の優しさ。
そっと隣の君に近づく。君の体が一瞬緊張したようにこわばったのが分かった。
心地良い暖かさのカップを両手に包むようにして握る。
猫舌で苦いものが苦手な俺の為に作られたぬるく甘いコーヒーを、もう一口飲んだ。
END
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