【獄寺の場合】
嘘。
虚言。
空言。
この痛みを埋めるなら幾らだって吐き捨てる。
ウソ。
「大丈夫ですよ、十代目」
緩やかに微笑めば、相手の瞳から滴がこぼれた。
見開かれた大きな瞳。
きつく自分の服を握りしめる手がかすかに震えているのが分かった。
「大丈夫ですよ」
もう一度、念を押すように囁く。
ふっと息を吐けば腹部が痛む。
頭だってふらふらして、相手を見つめるのがいっぱいいっぱいだった。
それでも口だけは余裕で、言葉を、笑みを、戯れに紡ぐ。
「やだ、よ…」
かすれた声に、腹部より、頭より、胸が痛んだ。
あなたを守りたくて。
あなたを死なせたくなくて。
襲いかかってきた相手からあなたを庇った。
邪な感情からあなたの傍にいた。
いつだって口に出せない思いを胸に、嘘をつく。
「大丈夫ですから」
伸ばした手であなたの頭を撫でる。
多分、本当に大丈夫。
確かに辛いが死ぬほどではないのだ。
でも、あなたがそんな顔をするから。
嘘を、つく。
撫でていた手で相手の頭を引き寄せる。
胸に沈む感覚。
暖かさがうれしくて、同時に寂しくて、手が震えた。
「安心してください」
嘘。
慰めなんていう綺麗なものじゃない。
触れたくて。
熱を感じたくて。
隠す思いを傷を利用してさらけ出す。
「愛してます」
聞こえないよう。
飲み込むように呟いて。
「大丈夫」
また、偽りを紡ぐ。
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