【拍手御礼 獄ツナ 『襲っちゃうよ』シリーズ】


 *勢い余ってツナ襲い受けみたいな話。





 一歩詰めれば、二歩下がる。

 四歩駆け寄れば、猛然逆走。

 いつまでたっても変わらない距離。

 むしろ開いていってる気さえする。



 君が良く分からないよ。







   オオカミ少年






 ちらりと隣に座った相手が時計を盗み見た。


 つられて俺も見る。

(あぁ…)

 思わずこぼれそうになった落胆の言葉をどうにか胸中に留め、俺は素知らぬ振りをした。


 今日こそは、といつも抱く淡い期待。
 しかし、結局は泡沫と消えるそれは俺の胸を締め付けるだけだ。


 無意味に付けられたテレビ。
 さっきまでの幸せだった他愛のない会話も突然ぷつりと切れた。



 これが合図。


「十代目、そろそろ…」

 なんて決まりきった言葉。

 どんなに強く願ったって君は結局緩やかな笑みを浮かべてそう告げる。


 腹に据えかねて、俺はあえて無視を決め込んだ。
 困ったという雰囲気を醸し出す君に、苛立ちが募る。




 俺たちがいわゆる恋人になったのは一ヶ月前。
 相手から、ましてや同姓から告白されてびびったけど、悩んで悩んで、結局付き合うことにした。

 常識だとか、人の目だとか、色々考えたりはしたけれど、結局のところ俺は自分の欲に勝てなかった。


 俺だって獄寺君が好きだったから。
 そんなわけでめでたく恋人関係になった俺たちがこの一ヶ月で経験したことと言えば、


 手を繋ぐ

 獄寺君の家に行く


 以上。




 おかしくないか?
 なんか違うだろ。


 世間一般の恋人の枠からはみ出た関係だけれど、恋人は恋人だ。

 それ以上のことをしたいと思うのはいけないことか?




 …せめて、キスぐらいしたいとおもっちゃいけないのかよ。




 何度だって機会はあった。
 帰り道とか、今とかさ。


 獄寺君の部屋で二人っきりなんだよ?


 けど、結局君は、キスはおろか、触れようともしない。

 最近じゃ、不満より不安の方が勝ってきて、ぐるぐると俺の中をかき混ぜる。



「十代目」
「……」
「お母様が心配します、よ」


 そんなに帰らせたいわけ?

 思わず出そうになった言葉を飲み込む。


 いっそ言ってしまえば楽だけど、答えが怖くて言えない。



 あー、もう嫌だ。

 そんなこと考えてたら、鼻の奥がツンとして、ヤバいと思った。




「俺、帰んない」

 断言した。
 じんわり熱を持ち始める目元を堪えるために力を入れていたら、妙にはっきりとした言葉になった。

 にらむように君を見れば、驚いたような、困ったような複雑な表情を浮かべている。

「じゅ―――」
「条件があるんだ」





 もう、いっそ、自分で動いた方が早いだろ?




「キスさせて」

 そしたら帰るよ、と条件付ける。
 見上げるように呆然としている君を覗き込み、そっと顔を近づける。




 いつも以上に君の匂いが近くて。
 触れてもいないのに君の熱を感じて、俺の顔が火照るのが分かる。



 うるさいぐらいの心拍は恥ずかしいとか、そんだけじゃない。

 多分、期待も混ざってる。



 間近に迫った君の顔が、器用にも赤と青に同時に染まる。
 そんな様子を可愛いと思ってしまう俺は、かなり重症だ。



 後ずさろうとする君の肩を掴んで、





 俺は君に襲いかかった。




                                  END



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 拍手御礼第三弾。

 「『襲っちゃうよ』シリーズ」と銘打ちましたが、
 小説フォルダの消失により、これ以外の作品が永久に葬られましたorz

≫掲載期間:07年9月10日〜08年4月