気付いてはいけないことがあった。
それはすぐ背後、もう首にすら手が掛かっていたのだ。
正体は、振り返れば分かるはずだった。
それでも振り返らず、気のせいだと自分に言い続け、気付かない振りをした。
首を絞められても、苦しくない振りをした。
そうすればきっとそれはなかったことになる。
そうすればきっと、自分は自分を保ち続けられる。
異常。
あんなものそれ以外の何者でもない。
じわじわと綿で首を絞められるように。
ありえない、ありえてはいけない
―――苦しくて、苦しくて。
言ってはいけない。
―――言ってしまえば楽になる?
は、と一つ息を吐き、陸遜は自嘲気味に笑った。
振り返るまい、そう言い続けてきたのに、たった一瞬、その気の緩みが全てを無に帰した。
自分の肩に手を置き、そこに残る温もりを確かめる。
壁に背を預け、ズルズルとそのまま床に座り込んだ。
たった一度、触れられただけのそこが酷く熱くて、その熱が切なくて嬉しくて悲しかった。
「好き過ぎて、もうどうしようもない・・・」
呟いて、認めてしまえば、その首を絞める苦しみすら心地よいと思える。
「趙雲殿・・・」
名を呟いて。
肩を抱いて。
自分の愚かさに涙を流す。
この異常な感情が、自分の息の根を絶つまで。
―――どうかあなたがこの感情に気付きませんように
END
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