+α
窓から差し込む白い光に陸遜は瞼を持ち上げた。
意識が戻った瞬間、ひどい頭痛が陸遜を襲った。
「う〜・・・・」
陸遜はうめきながら蒲団の中で寝返りを打つ。
頭の中で銅鑼を形振り構わず打ち鳴らされているような頭痛に、起き上がることはできなかった。
「おはよう。水飲むか?」
「おはようございます。頂いても良いですか?」
そこまで会話をして陸遜は違和感を覚える。
いつも聞きなれた女官の声ではない。
ゆっくりと頭に響かないように声のした方に顔を向ける。
「水」
そこにはそう言って湯のみ茶碗を差し出す一人の男。名は趙雲。
「えっ!?」
陸遜は思わず跳ね起きる。と同時にまた誰かが陸遜の頭の中で銅鑼を打つ。
「いっ」
思わず陸遜は頭を抱える。
「大丈夫か?」
「はい。昨日飲み過ぎたみたいで・・・・・って、何で趙雲殿がここに!」
そして悶絶。自分の声がひどく二日酔いの頭に響く。
「何でってここは私の部屋だからな」
そう言って趙雲は苦笑する。
陸遜はそこで始めて自分がいる場所が趙雲の寝台だったことに気が付いた。
「何で私こんな所に・・・・」
「覚えてないのか?」
陸遜に水を渡しながら面白そうに言う趙雲を眺めながら、陸遜はしばらく考える。昨日の記憶を必死で辿った。
「呂蒙殿の部屋でお酒飲んで、瓶六つ目に手をつけたのは覚えているんですが、その先が・・・・」
「瓶六つって・・・」
呆れたように趙雲が呟く。
「すみません!何か失礼なことしませんでしたか?」
陸遜の問いに趙雲は複雑な表情を浮かべた。嬉しそうな、困ったような。
「いや、確かに色々とあったが、たいしたことでは」
「すみません。昨日は仕事に切りがついたので羽目を外して飲んでしまって。私本当に自分が何をしたのか覚えてなくて」
陸遜は恥ずかしさで、この場から消えてしまいたい思いだった。記憶がなくなるほど飲んだのはこれが二回目。
(二度とやるまいと決心していたのに)
後悔先に立たず、とはこのことだ。
「陸遜?」
「あ、今部屋に帰りますから」
そう言って陸遜は寝台から降り立ち上がる。すると急にまた誰かが勢いよく銅鑼を打った。
頭痛にふらつく足元の陸遜を趙雲が受止める。
「大丈夫か?」
「す、すみません!」
恥ずかしさで顔に血が上るのがわかった。
するとそのまま陸遜は後ろから趙雲に抱きしめられる。
「ち、趙雲殿?」
慌てて抜け出そうとするが思うようには行かない。
「陸遜、愛している」
陸遜の耳元で趙雲が呟いた。
陸遜は驚きのあまり閉口した。そしてあきれたように呟く。
「朝っぱらからなんですか」
「約束したろ?」
趙雲はやけに嬉しそうだった。くすくすという笑い声が聞こえた。
「約束?」
そんな約束の記憶はなかった。
「昨日言っただろ?毎日愛してると言って下さいって」「はぁ!?」
陸遜は自分の耳を疑う。
「誰がそんなことを!?」
「陸遜が」
「いつですか!?」
「昨日、というか今朝か」
記憶が無い。自分のやったことに全く検討がつかない。
「一体私は何を・・・・」
ますます恥ずかしさが陸遜を襲う。
「最悪・・・・」
頭痛と恥ずかしさで陸遜は思わずその場にしゃがみこんだ。
「陸遜?」
「・・・・それ誰にも言わないで下さいね」
「当たり前だろ」
陸遜はなんだか嬉しそうな趙雲の声が恨めしかった。
「他に何かしましたか?」
「あー・・・・とりあえず、鏡を見てこい」
「鏡?」
この後、陸遜は鏡で見た自分の泣き腫らした目で更なる衝撃を受けることになった。
End
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