カシャン、と派手な音がして、驚いて見に行ったら真っ青な顔して君が突っ立っていた。 きらきら、かちかち 「あー・・・あぁ・・・」 真っ青な顔、見開かれた視線の先をたどって納得。 蛍光灯に照らされて、ちらちらと光る床。 正確には床に散らばったガラスの破片。 「やっちゃたねー・・・」 「あっ、す、すみません・・・!!」 俺の言葉を合図に弾かれた様に持ち上がった君の顔はそろそろ青を通り越して白くなってきている。 「俺のじゃないね」 だって緑だし。 「はい!十代目のは無事です!・・・けど・・・」 注がれるのは床に散らばった緑。 台所、流しの横にはぽつんとひとつ取り残されたブルーのグラス。 去年の夏に俺と獄寺君は揃いのグラスを買った。 それぞれ流れるように側面に色の筋が入ったそれ。 俺のは青で、獄寺君のが緑。 お揃いなんて恥ずかしくて、指輪がいいと提案する君をよそに俺が勝手に決めたガラスのコップ。 それでも、君は嬉しそうに買ってしばらくはそれを眺めてたっけ。 冬は使わないからと食器棚にしまって、今日今年の夏初のお披露目の日だったのだけれど。 どうやらそれは叶わないようだ。 「とりあえず、片付けよう。ね?」 「は、ぃ・・・」 しゃがみこんで欠片を拾い始める獄寺君を見て、俺はリビングに新聞をとりに戻る。 新聞紙を探しながらふと思い出すのは一つ残されたグラス。 1年ぶりに揃った姿を見えると思って、ちょっと期待してたんだけどね。 でも、本音は決して言えない。 言ったら獄寺君立ち直れなさそうだもんなぁ。 そんなことを考えて、探し出した古新聞紙を手に台所に戻れば、掌に緑のガラス片を乗せた獄寺君が寂しそうにそれを見ていた。 「わ、何してんの!危ないよ!」 多分、全部拾い集めたであろうそれを大事そうに掌に抱えていて。 「はい。これに包んで捨てるよ」 そう言って新聞紙を差し出しても、獄寺君は一向にそれを離す様子はなかった。 「獄寺君」 「・・・・・・・・・」 「獄寺君!」 「・・・・・・・・・」 「ご・く・で・ら・くんっ!」 「で、でも・・・」 「持ってたって仕方ないだろ!」 そうきっぱり言えば、あからさまに獄寺君は意気消沈した。 確かに惜しいのは分かるが、大きな破片だってあるし危ないじゃないか。 ふと、また青のグラスが目に入る。 ひとつ残されてしまったそれ。別に元々対であったわけではないけれど。 シンクにそれだけ残された姿というのは、確かに寂しい。 俺みたいだ。 唐突にそう思って、後悔した。 取り残されて、一人にされて、やっぱり寂しいよね。 「仕方ないなぁ・・・」 独り言のように呟いて、俺は獄寺君の掌に乗ったガラスの破片をそっと俺の手のひらに移し変える。 「あ、危ないですよ・・・!」 「大丈夫だって」 まさにさっきとは逆の立場になる。 俺はその破片たちを持ったまま、ぽつりと佇む青のグラスに向かう。 別に元から対だったわけじゃない。 でも、対になったからには、最後まで。 俺はこぼれないようにそっと青いグラスに緑色のかけらを入れていく。 「え!?あの・・・」 きらきら。 かちかち。 青の底に沈んでいく緑。 最後の一欠けらがキンと底を打った 「これでよし」 「あ、あの・・・」 満足気にしている俺に、遠慮がちに君が声をかけてくる。 「ん?」 「これじゃ・・・グラスが・・・」 「使わないからいいんだよ」 「でも・・・」 「対で買ったんだから、最後まで一緒だろ?」 これで解決、そう言って笑えば獄寺君の顔が歪む。 あぁ、泣きそう。 そんなことを思っていたら、ふらりと寄ってきたかと思うとぎゅっと抱きしめられた。 「スミマセン・・・俺の不注意で。折角のグラスが・・・十代目と一緒に選んだやつだったのに・・・」 「いいって」 「でも・・・」 やっぱり君はなかなか頑固だ。 「じゃさ、今度は指輪でも買おうか?」 ぽつりと呟くように言ったけれど、抱き込まれるようなこの姿勢ではしっかりと相手に届いたらしい。 がばりと体を離して、目を見開いて俺を見る君。 でも、先ほどとは違い頬が朱に染まっている。 「えええええ、ホントですか!!??」 「うん」 ちょっと笑って答えれば、またぎゅっと強く抱きしめられて、俺も君の背中を包むように手を回す。 最初は別々。ひとつひとつ。 でも、最後は二人でひとつ、だろ? END |
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