近くに来て、手を握る。頬に触れて、キスをする。

 単純で分かりやすい彼は、いつも同じ過程でキスをする。
 こっちも恥ずかしくなるほど、手が、唇が熱を帯びている。
 触れるだけのキスなのに、何回しても慣れないのはそのせいだ。

 キスをした後、照れ隠しなのか、彼はいつも俺を強く抱き締める。

「好きです…」

 そしていつもそう呟く。




   overheat




「獄寺君…苦し…」
 獄寺君の髪の臭いを間近で感じながら、いつも以上に長い抱擁に、俺は音をあげた。
「あっ、スミマセン、十代目!」
 やっと解けた抱擁に、俺は大きく息を吸った。
(なんだろう…?)
 疑問が浮かぶ。
 何故今日の抱擁はあれほど長く、強かったのか。
 赤らめた顔を背けるようにして座っている姿はいつもと変わらない。
(気のせい…かな)
 いつもより少し長かっただけ、それだけなのだろう。
 またいつものようにこの長い沈黙の後、俺の家庭教師が帰ってきて、獄寺君はまた慌てたようにして帰るのだ。
(いつもと変わらないじゃないか…)
 この状況をいい加減打開したいと思いながらも、俺にはその方法が分からない。
 獄寺君に気が付かれないよう小さく溜め息を吐く。

「十代目…」

「えっ」
 突然呼ばれて、俺は溜め息を吐いたのがバレたのかと焦った。
 振り向くと珍しく獄寺君がこちらを向いている。
「な、何…?」
 なんとか言葉を返す。
 そんな俺の言葉に反応した獄寺君の表情は、悲しそうで、俺は余計に焦った。

「あの、迷惑ですか・・・?」
「はぁ?」
 唐突に投げかけられた質問に俺は情けない声を漏らしてしまった。
 何を言い出すんだこの人、と本気で思った。

「だから、俺がここに来ること、です・・・」
 質問の意味がわからず、俺は思わず彼を見つめた。
 情けない顔だなぁ、なんて考えていた。

「十代目?」
「意味がわかんない」

 意味がわかんないけど、ちょっと腹が立った。
「いや、だからいつも・・・キ、スした後黙っちゃうんで。それに・・・」
「それに?」
 イライラが少しずつ積もっていくのがわかった。
「それに、好きですって言っても返事がないので・・・」
(あれって返事いるんだ)
 獄寺君の言葉に、驚きをこめた呟きが俺の頭の中を回った。

(でも―――)
 なんかすごく腹が立つ。

「獄寺君」
 名を呼ばれて俯き加減だった獄寺君の顔が上がる。
 と、同時に俺は彼の襟元を掴んで引き寄せた。

「十だ―――」
 もうこれ以上何も言わせたくなくて、俺の口で獄寺君の口をふさいだ。
 俺からするキスなんて初めてで、唇を合わせるだけで精一杯だった。それでも彼の言葉を止めるには十分だった。

 ゆっくり触れたところを離し、相手を見上げる。
 いつも眉間にしわを寄せて、怖い顔をしているのに、今は呆けた情けない顔をしていた。

「俺、好きじゃないやつとキスできるほど軽くないから」
 そう言ってから、なんだか恥ずかしくなってきて、顔を背けた。うるさいくらい自分の鼓動が聞こえる。

「十代目・・・」
「うわぁっ」
 ふらりとのしかかるように抱きついてきた獄寺君に俺は危うく倒れそうになった。

「それって好きってことですか?」
 耳元でささやかれる言葉がいつもとは少し違う言葉で、自分の顔が赤くなるのがわかった。

「・・・うん」
 俺がそう答えると、俺を抱きしめる腕に力が入る。
 苦しかったけど、それ以上に体が熱かった。


「獄寺くん、なんかすごく熱いんだけど・・・」
「それ、十代目のせいです」



 獄寺君は体温も単純で。
 それでも自分の体温も確実に上昇してるから、きっと俺も単純なんだ。


                                                    END



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初めて書いた獄ツナ小説。
なのに精神的には獄ツナって言うより、ツナ獄っぽくなってしまいました・・・。
男前なツナが大好きで、それを目指したらこんなことに・・・!

≫2006年2月