いつもの帰り道、いつものように俺はあなたの隣を歩く。
背中
そこは俺の家へとつながる道と十代目の家へとつながる道の分岐点。
普段は十代目を安全にお送りするため此処を左に曲がることはない。
「今日も俺ん家、来るの?」
その分岐点に差し掛かった時、突然投げかけられた質問。
それに俺は思わず足を止めた。
それに合わせるようにして、数歩遅れて質問の主、十代目もそこに立ち止まる。
「獄寺くん?」
「え、あ、はい、そのつもり、ですが・・・」
足を止めた自分を不思議そうに見つめる十代目に俺は慌てて答えを返した。
「なにか用事でもありましたか・・・?」
まるで十代目の質問が自分に家に来て欲しくないとでも言っている様で、内心少し傷ついた。
「そういうわけじゃないんだけど、オレの家ランボとかいてうるさいし・・・」
俺の質問に十代目は答えを濁す。
それが余計、不安を煽った。
―――迷惑ですか・・・?
思わず出かかった疑問をどうにか飲み込んだ。
相手のことは良く知っているつもりだ。
そんなことを聞けば、十代目は嘘でも否定して自分を自宅に招くことは明白だった。
「じゃ、今日は俺、このまま帰りますよ」
そして笑ってちょっとやりたいこともありますし、と付け加えた。
そう言うと一瞬十代目の視線が宙をさまよい再び俺へと戻ってきた。
「そっか。じゃ、今日はココで別れよう」
十代目微かな笑みを返し、それじゃ、と言って俺に背を向け小走りに真直ぐ道を行った。
俺はぼんやりとその背を見つめたまま、その場に立っていた。
一つ遠ざかっていく背中に奇妙な感覚を覚える。
いつもなら、あの道を二人で並んで歩くのだ。
まっすぐに伸びた道の先、まだ十代目の背中ははっきりと見える。
振り向いてくれないだろうか、そんな淡い期待を抱いている自分が情けなくて、ひとりため息をこぼした。
自分も帰路に着くため、歩み出そうとした時、自分の視界に映る10代目の背中が止まっていることに気がついた。
今打ち消したはずの期待が再び胸を満たす。
そして、目が合った。
見間違いかと思った瞬間、十代目が駆けて来るのが分かった。
俺はただ徐々に大きくなっていく十代目の姿を呆然と見つめていた。
離れた距離はあっという間に縮まり、再ほどと同じ位置に十代目が戻ってきた。
「十代目・・・?」
「今日、獄寺くんの家行ってもいいかな?」
目の前で息を切らしていた十代目は、呼吸が整うと少し俯きながら口を開いた。
俺はしばらく何を言われたのか理解できず、十代目の顔を見つめていると、十代目が顔を背ける。
「いや、駄目なら駄目でいいんだけどさ」
「滅相もないです!俺の家でよければ!」
俺は慌てて頷いた。また行ってしまう、そんな不安が駆け巡る。
背けられていた十代目の顔が向けられた。そこにはいつもの笑顔がある。
胸の奥が締め付けられるように苦しくなり、鼓動が早くなるのが分かった。
(死にそう)
俺はこの人の笑顔だけで死ぬ事が出来るかもしれない、そう思った。
「獄寺君?」
気づけば既に十代目は左の道に立ってこちらを見ていた。
俺は慌てて十代目の横に並ぶ。そして改めてここが自分の居場所だと感じたのだ。
いつもとは違う帰り道、それでも結局いつもと同じように俺はあなたの隣を歩く。
END
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