あなたの笑顔を見るたびに、あなたの熱を感じるたびに俺は息が出来なくなる。
自分でも怖いぐらいあなたを愛していて、自分でも嫌になるぐらいあなたを独占したいと願ってしまう。
あなたはそんな俺でもイイと言ってくれる。
でも、そう言われても根拠のない不安が頭をもたげる。
あなたとの距離がゼロに近づくほど、その不安は大きくなっていってしまう。
勝因
一つ息を吸い込んで獄寺は目を覚ました。
目の前に広がる、見慣れた白い天井に獄寺は詰まっていた息を吐き出す。
手に、額に嫌な汗を感じる。体中が奇妙な倦怠感に襲われていた。
馬鹿らしい、そう思った。でも、まだどこかで焦った気持ちが抜けない。
嫌な夢を見た。
夢の中、目の前で愛しい人が笑っていた。それはとても幸せそうな笑み。けれど、それは自分に向けられたものはなく、愛しい人の隣り、見知った男に向かって向けられたもの。
自分はそれを少し離れたところから見ている。どんなに呼んでみても、手を伸ばしてみてもそれは届かず、それどころか自分は二人からどんどん離されてしまう。
思い出して、再び焦燥感に襲われた。口の中に嫌な味が広がる。
額に手を置き、馬鹿な考えだ、ともう一度自分に言い聞かせた。
それの考えは愛しい人への侮辱だ、と。まして―――
そして、寝返りを打ち、ゆっくりと手を伸ばした。
急激に眠気が覚めた自分の指は冷たく、一瞬触るのがはばかられたが、それでも温もりを確かめずにはいられなくて、隣りで眠る愛しい人、沢田綱吉の頬に触れた。
―――まして、確かに今隣りにいて、温もりを感じているのに。
「十代目・・・」
小さく、かすれたような声で相手を呼んだ。起きないように、でも届いて欲しくて。
ゆっくり指を動かして相手の輪郭を、温もりを確かめた。
すると、規則正しく聞こえてきていた寝息がとまり、閉じられていた綱吉のまぶたが動いた。
しまった、と思ったときには既に遅く、眠たそうに開かれた茶色の瞳が此方を見つめていた。
「・・・獄寺君?」
「起こしてしまってスミマセン」
慌てて頬から手を離し、謝った。
綱吉は眠そうな声で大丈夫、と一言言って目をこすった。
「まだ、寝てて大丈夫ですよ」
「うん」
綱吉は一つ小さく頷くと、獄寺に近づいてきて額を獄寺の胸に寄せると、まぶたを閉じた。
綱吉の髪、息、鼓動を間近に感じて、獄寺は自分の鼓動が早くなっていくのがわかった。
「あのさ、獄寺君」
「え、あ、はい!」
もう寝たと思っていた綱吉に急に声をかけられ、獄寺の心臓は更に一度大きく高鳴った。
下を見れば、綱吉の瞳が見上げるようにして獄寺を見つめていた。
「好きだよ」
それだけ言うと綱吉は獄寺の唇に自分の唇を一瞬重ねた。
そして、おやすみ、と言って獄寺の胸に顔をうずめた。
しばらくしてやっと何が起きたか理解した獄寺は自分の顔が熱を持っていくのを感じた。
頭の中ではただ自分の脈が騒がしく響く音だけがあって、さっきまでの不安が嘘のように姿を消していた。
自分はなんて単純なんだろう、そんなことを思った。
それでも嬉しくて獄寺は自分の胸の中の綱吉を片手で抱きしめると、その柔らかい髪にキスを落とした。
「俺もです。誰よりもあなたを愛しています」
あなたと一緒にいる限り、俺は理屈の通らない不安に襲われる。
でも、あなたのたった一言で、そんな不安に俺は打ち勝つことが出来るんです。
END
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