「十代目、愛してます・・・」
あなたが本当に楽しそうな笑顔を他のやつに向けるから、思わず口をつく愛の言葉。
少し前を歩いていたあなたは一瞬驚いたように目を見開き、そして呆れたようにため息をついた。
それが怖くて、返事がないのが怖くて、また呟く。
「十代目、大す―――」
続くはずだった言葉はあなたの手に遮られる。
「路上でそう言うこといわないでよっ!」
そしてまたため息。
俺はどうしたってあなたを困らせる。
どんなに役に立ちたいと望んでも、いつだってあなたにため息ばかりつかせ、愛の言葉は聞こえない。
それなのに、あなたが他のやつに向ける笑顔、好意、全てには一人前に嫉妬する。
役にも立たず、ただ迷惑を掛けるだけの存在の俺が更に嫉妬することであなたを困らせる。
役立たずどころか、更に悪い。
「獄寺君」
眉間に寄せられた皺。名を呼ばれて嬉しいけれど、その後の言葉は怖い。
「どうかした?」
「え・・・」
非難の言葉を、叱咤する言葉を予想していた俺の口から声が漏れた。
「だいたい獄寺君が突飛な行動をするのってなんか独りで考え込んでるときだから」
そう言って、緩むあなたの顔。
「じゅ、だいめ・・・」
俺はあなたが喜ぶようなことをできない。
それなのにあなたはいつでも俺が喜ぶ言葉を与えてくれる。
「スミマセンでした・・・」
「謝るだけじゃわかんないんだけど」
「・・・嫉妬、してました」
驚いたようなあなたの瞳に少し顔が熱くなった。
「何に?」
「・・・さっき山本のヤローと楽しそうに話してて・・・」
俺には向けられない笑みだから。
「獄寺君」
名前を呼ばれて、あなたの顔を見つめる。
一歩近づくあなた。
急に縮まった距離に心臓が奇妙な脈を打つ。
顔を伏せたあなたの表情は伺えない。ただ、本当に小さな声で呟かれた言葉。
「俺も獄寺君好きだよ」
髪から覗くあなたの耳が真っ赤に染まっていて、きっと俺の顔もこれぐらい赤いのだと思った。
「これでいい?安心した?」
顔を上げて、離れていこうとするあなたの顔が赤くて、思わずその体を抱きしめた。
「ご、く寺君っ」
「十代目、愛してます!」
「わかったから、放して!ここ、公道だからっ」
ばしばしと背中を叩かれても、一向に腕の力を抜くことができない。
多分、また迷惑がられてる。
それでも、放せない。
耳元でまた聞こえるため息。
しかし、そのあと背中に遠慮がちに回される腕。それが嬉しくてまた腕に力をこめた。
いつか、あなたから与えられる幸福にそれ以上の愛をもって応えられる様に、と誓いをこめて。
END
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