・・・気まずい・・・
気まずすぎる!誰か助けてくれ!!
Unhappy valentine…?
部屋に降りる沈黙。
それがまるで重みのあるものかのように俺の肩にのしかかってくる。
目の前に置かれたガトー・ショコラ。先程、京子ちゃんとハルもって来てくれたものだ。
半分ほどなくなったそれにフォークを入れ、口に運ぶ。
美味しい!すっごく美味しいはずなのだ!ただでさえ京子ちゃん(とハル)の手作りなのだから、それは天にも昇る美味しさのはずなのだ。
が、今の俺にそれを味わう余裕がない。もったいないことに。
俺は口の中のガトー・ショコラを咀嚼しながら、盗み見るように前に座った男を見つめた。
暗い!暗いよ!
あからさまに肩を落とした人物、獄寺隼人の姿に俺はまた目線を反らした。
いつもはうるさいぐらい明るく、ニコニコ笑ってばかりの獄寺があからさまに沈んでいる。
よくよく考えてみれば朝から変だった。
(いや、いつも変だけど・・・)
胸中自分の考えにツッコミを入れる。
朝の獄寺君は今とは違い、なんだかソワソワしていた。
それから学校に着いてから様子がおかしくなり、家に着てからはほとんど喋らない。
(ったく、本当に何なんだよ。折角京子ちゃんたちから貰ったバレンタインのケーキがまずくなるじゃん)
・・・ん?
・・・ばれんたいん・・・
なんだか嫌な考えが頭を過ぎって、俺は頭を振った。
まさか、そんな、そんなことがあるわけない。
考えすぎ、自意識過剰。
そう思って、何度も考え直してみても行き着く答えはそれだけ。
「あのさ・・・」
此処まで来たら聞くしかないじゃないか!
声を掛ければ、手付かずのガトー・ショコラを見つめていた暗い獄寺君の顔がこちらを向く。
・・・なんだか怖い・・・
「もしかして・・・俺のチョコ、待ってたりした・・・?」
出来れば首を横に振ってもらいたいのだが。
「い、いえ・・・まさか・・・そんな・・・」
最後の方はほとんど聞き取れない。
それは言葉では否定しているが、行動では完全にYESじゃないか!!
確かに、俺たちは恋人とか言う関係だが、男の俺が渡すものなのか!?・・・いや、獄寺君も男だけどさ。
まさか、男の自分からのチョコレートを待ってる奴がいるとは思わないじゃないか。
とりあえず、胸中で文句を言い終えてから、もう一度獄寺君を見れば先ほどよりも落ち込んでいる。
どうする!?俺!!
「あ、あのさ、獄寺君・・・?」
とりあえず、呼びかけてみる。
返ってくるのは気のない返事。
あー!!俺のせいなのか!?
違うだろ!
「獄寺君!」
思わず、っていうかむしろ逆切れ気味に名前を呼べばやっと獄寺君と目が合った。
うわ・・・泣きそう・・・?
その表情に思わず勢いが削がれる。
「あ、あのさ・・・」
あ〜、もう、どうすんだよ・・・。
仕方なく獄寺君のほうに寄っていく。
「十代目・・・?」
寄ってきた俺を不思議そうに見つめる獄寺君を放っておいて、俺は彼の前に置かれた手付かずのガトー・ショコラをフォークで切り取り彼の口元に突きつけた。
「じゅ・・・」
「食べて。折角作ってくれたんだよ」
そう言って更に押し付ければ、獄寺君は渋々口を開き、ガトー・ショコラを食べ始めた。
「美味しいだろ?」
「はぁ、まぁ・・・」
「じゃ、俺も」
なんていうか、そんなの勢いとか、その場の雰囲気とか、そんなもんだろ?
理性とか恥とかちゃんと働いてたら多分そんなこと無理だけど、そん時は動いてなかったんだよ。
自分から身を乗り出して、獄寺君の唇に自分のを重ねる。
一瞬、甘ったるい香りと味がした気がした。
少し離れてから獄寺君を見れば、見事に呆けた顔をしていた。
それを見てたらどんどん俺も恥ずかしくなってきて、思わず視線をそらす。
「十代目、今何を?」
「恥ずかしいから聞くな!」
こんなに恥ずかしい行為を口で説明しろとか言うのか!?
「じゃあ・・・」
獄寺君がそう言ったかと思ったら体が傾いて、そのままもう一度キスをした。というか、された。
甘い味のする獄寺君の舌に唇を絡め取られて、妙な気分になる。
「ご、獄寺君・・・」
「スミマセン・・・もっと、欲しくて」
やっと離れたと思ったら、返ってくるのはそんな言葉。本人の表情は本当に申し訳なさそうだが、台詞からはそんな気はまったく伺えない。
俺としては思わず恥ずかしさに身悶えそうだ。
「その言葉、恥ずかしいよ・・・」
「スミマセン、でも、嬉しかったので」
そう言って溢した笑顔。
悔しいけれど、やっぱりこっちの方が獄寺君らしくてイイや。
「はぁ〜」
と、大きくため息をつく。
「あの、本当にスミマセン・・・」
俺が怒っていると勘違いしたのか、今度は本気で謝ってくる。
「や、別に、そう言うわけじゃないから」
俺からしたわけだしね。
「・・・明日でもチョコ買いに行こう」
まだ、不安そうな顔をしている獄寺君の頭を撫でてそう言えば、あのひとつなつっこい笑みで抱きつかれた。
なんだか、また彼を甘やかしてしまった気がする。
いつもだめだとは思ってはいても、それをして満足している自分がいるんだから始末が終えない。
END
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